秀峰登高会の現状と事故後の対応

 

1、秀峰登高会の現状

 

秀峰登高会は個人山行を尊重する自由な雰囲気の山岳会です。40年以上の歴史があり、昔から剣岳、黒部、谷川岳などを舞台にドロ臭い活動を続けてきました。特に冬の剣岳、黒部にはこだわりを持ち続け、その伝統は細々ではあるけれども受け継がれていて、一部の会員は毎年のように冬の剣岳、黒部に照準を絞って活動をしています。

最近は登山の価値観が多様化して、我が秀峰登高会でも純粋なフリークライミングから沢登り、岩登り、雪稜、冬壁、氷瀑など山行形態は多岐に及んでいます。ほとんどが1人から4人位の小人数パーティーです。また参加を強制する合宿型の山行はほとんど組みませんが、たまには自由参加の集中山行などもあります。

隔週でやっている集会では直近の山行報告と次の山行計画を決めて、各自が自分の山を追求するというスタイルです。春の連休、お盆休み、正月休みには長期のメイン山行を組みます。毎週末には会員の誰かがどこかの山に登っています。

会員の義務は、集会に出席し、会費を払い、保険に加入し、山行計画と下山報告くらいです。山行記録をホームページに載せていますが記録をとる事を義務づけてはいません。だから純粋に山に行きたい人には雑務が少なく居心地のいい山岳会です。会では基本的に年1回の救助訓練を行ない、日常的な山行では使わない特殊な技術の習得に勤めていますが、この他には段階的、体系的な訓練、講習などは特に行なっていません。各々がそれぞれの山行で技術を盗み、体にしみ込ませてステップアップしていき目標のルートに挑戦するというスタイルです。

最近は実動会員数が10人くらいから、20人くらいにまで増えてきました。技術や体力、山に対する考え方、取組み方もまちまちです。当然、個々の会員が目標とする山もそれぞれ違う。お互いに他人の山を認め合った上で自分の山を追及できる。ここが秀峰登高会の長所です。逆の言い方をすれば他の会員が何をやっていても気にしない。会員どうしの理解度が浅くなってきていたのではないか?このような会の状態の中で今回の事故が発生したのではないかと思います。

 

 

2、秀峰登高会のその後の対応

 

今回の遭難で平松、石原のふたりがどのような行動をして死に至ったのかは、推測する事しかしかできません。しかし天候判断の誤りや、進退判断の誤りなどいくつかの重大ミスが重なって事故につながった事は間違いないでしょう。また現場でのミス以前に今回の山行が無届けであった事や、極端な軽量化を強いられるような登攀要素の多いルートではないのに無線機や携帯電話など通信機器を持参しなかった事はあまりに今回の登山を甘く考えていたからでしょう。

私たちが今回の事故から学んだ重要な事は事故が起きた際にどのようにリカバリーするかという事です。昔も今も技術、体力を磨く事は会員各自にまかせています。組織として事故にどのように対応するか、個人としてはいかに事故の認識を深めるかという事を痛切に考えさせられました。現在、会の現状を考えたうえで、より安全に登る事を目標に、今できることから改善しているところです。

 

2―1会員としての約束の再確認

 

今回の山行は事前に会に計画書が提出されていなかった無届けの山行でした。おそらくどこの山岳会でも登山計画書の提出と下山報告は当然の義務とされているでしょう。我が秀峰登高会でも数少ない義務の一つであります。にもかかわらず無届けの山行が行われたのは会の中にそれを起こしうる雰囲気があったという事でしょう。今回、この事を重く受け止めて、会員としての約束をはっきりと文書化して徹底をはかる事としました。

もともと秀峰登高会には文書化した立派な会則などはありませんでした。実働人数が少なく、個々の会員の意志疎通が密な以前の状態では堅苦しい会則などは必要なかったのです。

今回作成した会員の約束は会員各自が頭ではすでに理解している約束事を文書化したものです。第1条、第2条……と長々と続くようなものではどうせ決めても守れないし、秀峰の雰囲気にはなじまない。そこで必要最小限の約束事のみを並べて徹底をはかる事としました。また併せて、遭難がおきた際の家族と会の関係、山岳保険の保険金の使途について定めた約定書を作成し、会員に提出を求めている。これは約定書に書かれた事の確認以前に、山を知らない会員の家族にも世間で危険といわれているロッククライミングや冬山を秀峰登高会の会員として、やっている事を知ってもらう意味もあります。

 

2―2事故の際の対応マニュアル

 

今回の遭難事故は最終下山予定日から2日目に、ヘリコプターから早くも遺体が発見されて収容されました。会が家族からまだ下山していないという連絡を受けたのは最終下山予定日の翌日の午後でした。不手際もあり実際に会として動く前に遺体の収容の知らせを受けたのです。

本遭難を受けて、今後を考えて事故の際の対応マニュアルを作りました。ここには「遭難事故連絡が入った場合、または最終下山日を過ぎても連絡がなかった場合の会としての基本行動」と「現場で事故に遭遇した場合のパーティーの基本行動」が記されています。

会としては、事故慣れはしたくありませんが有事の際に現場で、あるいは在京での事務手続きや実際の捜索活動を円滑に進めるために、このマニュアルは是非とも必要なものと考えました。同時に事故の際に現場の状況を正しく伝えるための緊急連絡カードを採用し山行中、常に携行する事としました。会の名簿と一緒に名刺サイズでビニールコーティングし、苦もなく持ち歩けるようにしました。

 

 

 

 

2―3その他の対応

 

現役で山に通っていると、登る事に忙しくて救助法、救急法などは重要性はわかっていても、ついつい後回しにしてしまいがちです。当会でもその傾向は顕著にありましたが、1年ほど前から会の中で救助法、救急法への関心は少しずつではあるが芽生えてきていました。

一部の会員が都岳連の救助技術講習を受講して、会へ還元したりしていました。また現役の都岳連救助隊の副隊長が会に加入したことも会員のレスキュー意識の拡大に貢献したと思います。この流れをさらに太く確かな流れにしていきたいものです。山に行きたいさかりのバリバリの現役にとっては救助講習はかったるいものですが、6月の総会後の救助講習会では会員みなが目を輝かせて真剣に取り組み、たいへん有意義だったと思います。これは近年のレスキュー技術の進歩は目を見張るもので実際のクライミングの現場でも役立つものがたくさんあることも理由の一つだと思います。とはいえ一度講習を受けてすぐに現場で使えるものばかりではありません。繰り返しの反復練習も大切です。しかし講習だけでは面白くない。今後は実地の実践登山の間に講習形式の訓練山行や集会でのワンポイント講座などを上手に組み入れていきたいと思っています。

危険な山で活動しているのだから、会としては安全に対しての啓蒙に力を入れて、会員の安全に対しての意識レベルの高まりを願っています。秀峰登高会はまだまだ発展途上です。これから秀峰登高会がどのような道を歩んでいくのか、会の中で意見を出し合いより好ましい方向を見出して進んでいきたいと思います。

(記  瀧島 久光)