編集後記
慶應義塾大学アルペン=フェライン山岳会OB会(岳酔会)加賀美信
 

  この事故の調査の目的は、当初から追悼ではなく今後の岳人の安全の為にすることとなっておりました。しかし、彼等と私は学生時代から同じ釜の飯を食べ、互いにザイルで結び命を削って確保し、困難に耐え、あるいは危機を乗り越え、達成感を共有してきました。ですから、本調査が追悼目的でないと言いながら、私は今回の事故を徹底追究することが彼等への弔いだと思ってやってきました。
  調査するのに伴い、遺族を始め彼等と縁のあった人々と数多くお会いしました。そこに共通するのは「残された人の思い」でした。
  「好きな事をしていて亡くなったのだから諦めもつく」と言いたくなる気持ちも分かりますが、だからと言って、自分達を気遣う人に心配や迷惑を掛けて逝ってしまった彼等は、許されるものではありません。
  山をやるからには、絶対に生きて帰らなくてはなりません。残された人の為に、そして何よりも自分の為に生きて帰る、ただそれだけです。
  「自分は大丈夫」とはよく言われますが、それには根拠がなく、また「絶対大丈夫」は有り得ません。皆様が本調査報告書を読んで、今後の一助にしてもらえたらというのは勿論ですが、それよりもまず「山は恐ろしい」という簡単な事を再認識して戴けたらと思います。「怖い」という認識がより安全な行動を導くものだと考えております。

  最後になりましたが、今回の調査におきましては、秀峰登高会、KBP、やまびこ、KAVの方々を始めとして、関係各位の皆様には色々と御協力して頂き、誠にありがとうございました。改めて厚く御礼申し上げます。

1999年9月8日