<参考>平松の時計の誤差修正の計算

この時計の誤差値等は以下の方式で算出した。

事故当時、平松はカシオ製「プロトレック」(品番1406)という高度計付時計を付けていた。その時計には日時・高度・温度メモリー機能が付い
ていた。以下はそのデーターの内容である。

日付    時刻   表示 標高      気温
3月 6日 18:34  MIN   -60m   30.9℃
3月20日  8:50       1545m   20.2℃
3月20日  8:50  FIN  1545m   20.4℃
3月22日  7:50  MAX  2985m  12.3℃

時計の時刻は合っており、また自動記録モード(オートメモリーという。毎時0153045分毎に自動的に記録)は解除されていた。

これらを基にこの時計の特性についてカシオ計算機に電話にて問い合わせた。

この時計の特性及びその状況

 320日の記録は、一旦オートメモリーモードにして自ら手動で記録した後、すぐに解除したものと思われる(850というオートメモリーでは記録されない時刻で、且つ同時刻にFIN表示の記録が残っているため)。
  また、時計の置かれていた温度環境が、高度センサー及び温度センサーの精度保証温度範囲内であることから、高度センサー及び温度センサーは正常に作動していたと思われる。

 以上を前提に、両日の気温、気圧の誤差を考慮した修正を行う。

 
修正の方法

 
1、前提条件

次の計算は以下のことを満たしているという仮定のもとで行う。

  1. 空気は乾燥した理想気体である。
  2. 温度・気圧・高度の変化は標準大気に沿うものとする(前線などの変化を考慮しない)。
  3. プロトレックに計測されたデータは、実際の風圧に対して影響を受けていない(感圧部分に風が直接なり間接なり当たってない)。
  4. 高度表示は、工場出荷時の状態で計算されている。
 

2、標準大気
この標高は標準大気の計算式から求められている。   ここで標準大気とは次の状態にあるものとし、空気は乾燥した理想気体とする。
空気のモル質量M=28.964420kg/kmol、空気の気体定数R=287.05287J/(kgK)
海面上の気温T0気圧P0密度ρ0はそれぞれ 288.15K(15)101.325kPa1.225kg/m3である。

以下基準面を海面におく。

気温T(K)と高さH(m)との関係は次のように表される〈(1)とする〉。


ただし, Tb,は海面での気温、L’は比例定数、Hb は海面の高さである。
TbL’Hbの値はそれぞれ、288.15(K)-0.0065(K/m)0(m)

また,気温が変化する場合の気圧PHとの関係は、次のように表される〈(2)とする〉。


ただし,Pbは海面での気圧(Pb=101.325kPa)、goは重力加速度(go=9.80665m/)である。

以上が標準大気についてである。

 

 3、高度補正
このことから、以下に示すように時計に残っていた高度の補正を行う。
 

@まず、時計内部の高度計の誤差を計算する。

a)時計内部の温度差による高度センサーの誤差
208:50の記録では20.215±210(℃)
227:50の記録では1512.3±2≦10(℃)
時計内部の温度差による高度センサーの誤差は10℃あたり±100mであるから、温度差による高度誤差は両日とも±100mである。

b)高度センサー自体の計測誤差
両日の記録を相対高度の差±(計測した高度の差×0.0530)mに代入する。但し、ここでは相対高度の差は表示高度である。
208:50の記録は、下限で1437.75m、上限で1652.25m。
227:50の記録は、下限で2805.75m、上限で3164.25m。

a)b)の誤差を統合すると、
208:50の記録は、下限で1337.75m、上限で1752.25m。
227:50の記録は、下限で2705.75m、上限で3264.25m。

 
A前記結果を基に天候による高度の修正を行う。
なお、天候による高度の修正を行うにあたって、20日、22日の気圧は地上天気図より以下の情報を用いた。

20日:1014hPa
22日:1008hPa

また、テレキャビンで観測されたという以下の値を基に、海面での気温を計算した。

20日:1515m−5
22日:1515m−9

この気温の値から、海面での気温は、20 4.8℃、22 0.8℃となる。

 標準大気は0mにおいて288.15(K)をとっており、カシオ製「プロトレック」(品番1406)では、標準大気での気圧と高度の関係より高度表示されているので時計に残っていた高度から、その時の気圧を計算する。

まず、(2)式に(1)式を代入し


を得る。この式は、高度から気圧を、気圧から高度をそれぞれ求めることができるので、この式に基づいて計算する。
 

20日について。
0mでの気圧を1014hPa、気温を4.8℃とする。
まず、下限の1337.75mにおける気圧は、862.5 hPaになるので、天候による高度修正を行うと、1296mになる。
次に、上限の1752.25mにおける気圧は、835.7hPaになるので、天候による高度修正を行うと、1696mになる。

22日について。
0mでの気圧を1008hPa、気温を0.8℃とする。
まず、下限の2705.75mにおける気圧は、727.7hPaになるので、天候による高度修正を行うと、2533mになる。
次に、上限の3264.25mにおける気圧は、677.8hPaになるので、天候による高度修正を行うと、3065mになる。
 

補正結果

3208:50の記録地点の高度は、下限で1296m、上限で1696mである。
3227:50の記録地点の高度は、下限で2533m、上限で3065mである。

※厳密な地上気圧・外気温が分からず、補正結果の数字は厳密なものではない。